道具
東京では桜が咲き始め、春が訪れ始めています。ワイナリーでは冬仕事を急ピッチで進めると同時に、母枝の誘引など、芽吹きへの準備に勤しんでいます。まだぶどうもお休みしているので、今回は道具について少しお話を。
ヴィラデストの栽培スタッフは全員それぞれが2種類の鋏を持っています。一つは剪定鋏。もう一つはその他の殆どの作業、特に収穫期に活躍する芽切鋏です。一人一人好みが違うので、皆違う鋏を使います。鋏は栽培スタッフにとって商売道具です。鋏がなければ私たちはぐんぐんと伸びていくぶどうを見ていることしか出来ません。
昔、実家に出入りする造園職人さんの道具や、父の大工道具を見るのが好きだったためか、自分の道具にも少なからず愛着があります。幼い頃にお風呂の中でことわざ本を読んでいた時(お風呂de暗記シリーズ?だったか)、「弘法筆を選ばず」のページで納得がいかず、そのまま大人になった私は、道具こそ仕事の質を高めるはずだ、と今でも信じ込んでいます。
この度、愛用していた3代目の芽切鋏がダメになり、新たな鋏に代えることになりました。芽切鋏の中でも東北型と呼ばれるものらしく、この仕事についてからずっと手に馴染む形を探していて、ようやく出会った物です。(他にも信州型や弘前型など、地方によって形があるようです) 先端は両刃とも欠け、刃はボロボロになってしまいました。傷んだ刃でもぶどうは切れますが、切断面は崩れ、仕事の効率も落ちるために4代目を購入しました。右が3代目、左が4代目です。もちろん全く同じ物です。今シーズンは新しい鋏が活躍しますが、引退した今まで使っていた鋏たちも、なんとなく捨てられずに、大事に押入れの中で眠っています。(庸)