暑さに負けず、頑張っています! ~“自然派ワイン”について考える~

2022.07.19

6月27日に史上最短で梅雨明けの発表があり、いきなり猛暑の夏がやってきました。
スタッフもこの唐突な暑さに順応するのが大変な状況ではありますが、熱中症に注意をしながら、ブドウ栽培にとって最もいそがしい時期を頑張って乗り切りたいと思っています。

今年は開花時期に雨が少なく、気温が下がることもなかったので、結実の状況も良好で、ブドウは今のところ順調に生育しています。ただ、このところ毎日のように夕立があるので、病気の発生が心配されるところです。

今回は、ヴィラデストのワインの中では少し異色のワインである「タザワメルロー」のお話をしたいと思います。「タザワメルロー」は、いわゆる、“自然派”とか“ナチュラル”と言われるジャンルのワインです。
2004年に大橋健一さん(現在、日本在住で唯一のマスター・オブ・ワイン)が『自然派ワイン』を執筆されました。その当時は、世界中をみても“自然派ワイン”のジャンルに入るワインは少なく、そのようなワインがあることもあまり知られていませんでした。
私自身、仮にチャレンジしたとしても、雨の多い日本で合成農薬を使用せずに、病気に弱いワインブドウを栽培することは難しいだろうと思っていました。
そのような中、若手の栽培醸造家が毎年1回集まって自主的に開催している勉強会(その会は今も続いています)があり、当時私も参加していたのですが、そこで“自然派ワイン”が話題になったことがありました。また、フランスのいわゆる“自然派ワイン”で、すばらしい品質のワインをテイスティングしたり、現地生産者に実際にお会いして話を聞いたりする機会があり、私もそのようなワインにとても興味を持つようになりました。
そして、ヴィラデストの約0.6ヘクタールのメルロー畑にて、有機栽培に準ずる(有機認証は取得していませんが)栽培を始め、その畑から収穫されたブドウは、自然の酵母で発酵を行いました。それが「タザワメルロー」です。

「タザワメルロー」は2007年が初ヴィンテージでしたが、畑では最初の2年間ほどは、べと病を中心とした病気に苦しめられました。また、殺虫剤も使用できないため、ミノムシが大発生して発芽前の芽を食べられるなどの被害もありました。自然酵母による発酵も、最初はこわごわでしたが、勉強会の仲間と情報交換をしたりしながら、徐々に栽培面でも醸造面でも安定したワインを生産できるようになってきました。
できたワインは、柔らかくて繊細であり、少しオフフレーバーを感じますが、良い意味でこれまでのヴィラデストのワインにはない複雑さを感じるワインになりました。このワインの魅力を感じ、ヴィラデストのファンになってくださったお客様もたくさんいらっしゃいます。
ちなみにメルローを選んだのは、ヴィラデストで栽培している品種の中では、最も栽培がうまくいく可能性が高いと思ったことと、畑の位置が森から離れていて、害虫の被害がもともと少ない畑であったからです。

▲「タザワメルロー」の畑は火山性の黒ボク土だが、礫が多くて水はけはとてもよい

 

それ以来、ヴィラデストでは、この「タザワメルロー」を継続してつくっていますが、「少しオフフレーバーを感じるが、良い意味でこれまでにない複雑さを感じる」自然酵母による発酵の利点を活かすべく、他のワイン、「ヴィニュロンズリザーブ メルロー」や「ピノ・ノワール」でも部分的に自然酵母を導入しています。
ただ、ヴィラデストのワインは、ヴィラデストの美しい風景を映し出すような、クリーンでエレガントなワインであることが重要だと考えていますので、あくまでも培養酵母を主体としつつ、自然酵母はアクセントだと考えています。
また、ワインはテロワールを反映することが価値であると考えますが、自然酵母での発酵は、オフフレーバーが発生しがちであり、それがテロワールを覆い隠してしまうこともありますので、そういうことのないように注意をしています。
一方、「タザワメルロー」をつくる際に、亜硫酸の使用量を減らしたのですが、その経験によって、他のワインも全体的に以前と比べて亜硫酸の使用量を減らすことになりました。「タザワメルロー」をつくることで、ヴィラデストのワイン全体のレベルアップにもつながっているように感じています。

最近は、“自然派ワイン”という言葉はあまり使われなくなってきて、“ヴァンナチュール”や“ナチュラルワイン”などと言われることが多いですが、いずれにせよ、そのようなワインの中には、すばらしく柔らかく優しく、そしてクリーンで複雑さも感じるすばらしいワインもあれば、オフフレーバーが明らかに前面に出てしまっているものもあります。
また、特に日本では、“自然派ワイン”や“ナチュラルワイン”などという言葉について、その明確な定義があるわけではなく、品質も玉石混淆といったイメージです。今後は、ある程度、製法や表示方法などの基準を定めていく必要があるように思います。

さらに、“ナチュラル”というと、何となく環境にやさしいと思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。場合によっては、ボルドー液などの散布回数が増えることで農機の燃料を余計に消費することにつながることもあります。
環境に配慮するのであれば、畑やワイナリーで自然エネルギーを有効に活用することや、そもそもその地に適した病気に強い品種を導入することなど、いかにして環境への負荷を少なくし、ワイナリーで働く人はもちろん、周辺の住民にとっても、「サステナブル(=持続可能)」であるかを考えることが、より重要になってくるのだろうと思います。

今回は、なんだか理屈っぽい通信になってしまいましたが、とにもかくにも、飲んで心からおいしいと思ってもらえるワインをつくることが何よりも重要だと思いつつ、今日も畑で草を刈ってきました!